境界を超える日本画〜加藤弘光の挑戦〜

180cm x 180cm 2012
Ink, gold and colors on Japanese paper
加藤弘光(1957~2019)は、自然の中の光、水、木や花をみつめ、画面の中にそれぞれが共鳴し合う生命の記憶を描きました。特に震災後に描いた桜のシリーズは、 失われていくものへの静かな感謝と鎮魂の表現として、海外でも高い評価を受けています。これらシリーズは写実を超え、日本人独特のメンタリティー、祈り、また隅々にまで宿る魂を描き出しています。62歳で埼玉嵐山のアトリエで他界するまで、時代の異端として生きた加藤の画業を振り返る展覧会です 。
1957年宮城県生まれ。多摩美術大学美術学部日本画専攻。同大学院修士課程日本画専攻修了。
1988年より2003年まで日展、上野の森美術館大賞展などで作品を発表。その後は個展を中心に韓国、フランス、ドイツ、アメリカ、イタリアなどに活動の場を広げた。なかでも、スペイン、サラマンカ大学日西センター「美智子さまホール」での個展は代表的な展覧会となっている。
境界を超える日本画〜加藤弘光の挑戦〜
2026年5月8日(金)〜5月21日(木)
会期中無休
12時〜18時(最終日16時まで)
加藤弘光展によせて
美術史家 隠岐由紀子
加藤弘光展によせて
美術史家 隠岐由紀子
満開の桜の上に月が輝く夜、ふと天国の門をくぐって逝ってしまった加藤弘光さん。
残された夥しい画面の数々は、彼が対象から受け取った自然の息吹を永遠に私たちに届け続けている。ごく細密に描かこまれた花びらや葉脈、漣の反映は、何百何千という写生画を重ねた末に、作品として結晶化し、今私たちの眼前にある。
夫人によると、画家は下描きもせずに本画の画面に向かい一気呵成に花や葉叢を描いていったそうだ。ミケランジェロが、誰もが失敗を恐れて刻みかねて野晒しになっていた大理石の塊に果敢に挑んで、あのダヴィデ像を彫り出した有名なエピソードを思い出した。仕損じが怖くないかと問う人に彫刻家は、中に有るものを取り出すだけだと語ったという。
画面をおおいつくす桜、紅葉、蔦、百合、睡蓮。そうした作品を前にして以前弘光さんに、色と形の反復には型紙や刻印を用いるのかと問うたことがある。「とんでもない、花も葉もひとつひとつ精一杯に咲いているから、ひとつひとつをその命のまま描かなくては」というような答えが返ってきた。
加藤弘光の絵画は、寝食をわすれた描画への没頭から誕生している。それは一輪の花、一枚の葉の語りかけに、彼がどこまでも誠実に、あるいは自身の命を削ってでも向き合った証なのだ。
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